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「お前、やばい位に可愛いじゃん」と、静かに言ってきた。
「はあ? な、なんなのよ。呼びつけてそれ?」
貴子が赤くなりながら怒って尾田の方へ顔を向けると、尾田が貴子の頬にキスを落とした。
貴子のゲンコツが出ないうちにすばやく離れる尾田は、勢い良く走り始めた。
―――まったく、またこのパターンなの! 走るのが好きな奴!
貴子は、キスされた頬をおさえて走ってゆく尾田の後姿を眺めた。
―――尾田。私ね、悔しいけど少しだけ今、きゅんとしちゃったよ。まだ、言わないけどね。
微笑んで自分も走り始めた貴子は、冷たい風の中に澄んだ空気を見つけていた。体に良さそうなマイナスイオンの出ている風が心地よく貴子を包んでいく。
その風が前を走ってい行く尾田から吹いてくることを、なんとなく感じていた。
夜、尾田と貴子は仕事帰りにいつも寄る大盛り好きのおじさんがやっている居酒屋へ来ていた。
「おじさん、煮込みある?」カウンターの端に座っていた尾田がおじさんに話しかける。
「あるよ。待ってな」
おじさんが煮込みを大きな丼に山盛りによそってくれている。
「あんなに食べられるの?」貴子は、あきれた様に聞いた。
「食えるよ。あれ位。なんて言っても藤谷の前でなら、俺は頑張って食えちゃうから」
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