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山盛りの煮込みを受け取って尾田は、スプーンですくって豪快に食べ始めた。大口を開ける尾田を見ながら、苦笑する貴子。
―――尾田ったら子供みたいに無理しちゃって。無理っていえば……。昨日の白井部長も子供みたいだったな。無理して穴子食べて。
白井を思い出してくすくすと笑い出す貴子を尾田は、怪訝そうに眺めた。
「なんだよ。急に」
「え? ああ、ちょっと思い出してたの。……ああっ!」貴子は忘れていた事を急に思い出していた。
立ち上がった貴子は、スマホを手にしていた。
「ごめん。尾田。ちょっと電話してくるね」
「? ああ」
スマホを片手に貴子は、店の外へいそいそと出ていった。
―――すっかり忘れてた。白井部長、耳治ったかな?
スマホの画面に白井の番号を表示させ、寒さに身を縮めながら白井へ電話をかけた。
足踏みしながら、耳を澄ませるとやっと白井の声が聞こえた。
「はい、白井です」
「あ、あの『mare』の藤谷です。お疲れ様です。あの耳の方は……」
話し始めた貴子の声にかぶせ気味に白井の声がしてきた。
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