1人が本棚に入れています
本棚に追加
ダイニングで妻と二人になる。妻はお茶を入れてくれた。本格的に泣きたくなってきた。
「おれが浮気しているのを知っていたのか?」
「ええ、S子さんのことももう大分前からね」
「でもだからって……」
「きょうあの人が突然来てくれて、信頼できそうな人だし、あなたの性格を一番良く知っているだろうから、それとなくあなたの浮気の相談をしたのよ。そしたら、ドッキリをしかけてやるのが一番効果的って言うから、お願いしちゃったの」
「そうか、そうだったのか」
殺されなかったのは嬉しいが、これからは浮気はできないし、妻には当分頭が上がらないなと思い、なんだか複雑な気分だった。
「ところで、あの人は誰なんだ? おれの性格を良く知っているっていうけど、興信所の人? それとも便利屋さんかなんかか?」
「あの人って?」
「決まってるだろ、お前と一緒におれにドッキリを仕掛けた人だよ」
「えっ、あなたの幼なじみでしょ?」
「今日初めて会った人だよ」
「また冗談言って。そんなこと言っても浮気はしないっていう約束はなくなりませんからね」
妻は飲み終わったお茶をキッチンに運んでいった。
おれはただ、呆然と妻の背中を目で追った。
あの夜から半年がたつが、彼が誰だったのか、おれも妻も分からないままだ。(了)
最初のコメントを投稿しよう!