第1章

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 それで、中途半端な時間に目を覚ましたというわけだ。おかげで命びろいできた。いや、できていない。  この部屋は地上十二階。生まれながらに羽を持っている者以外は、外に留まっていることはできない。つまり、もし、妻の会話の相手がプロの殺し屋なら逃げ場はないというわけだ。 「でも、本当にいいんですね」と男の声。 「はい、もう気持ちを決まっています」 「じゃあ、手順をもう一度確認してましょう。まず私がこの注射を旦那さんに打ちます。これは筋肉を弛緩させるもので、打たれた人はまったくカラダを動かすことができなくなります。効果は1時間弱。その間にあなたが彼の息の根を止めてください。刃物を使うのも良いですが、血が残ると後で面倒だ。濡れた雑巾を顔をかけるのはどうですか?」 「そうします」と妻ははっきり言った。  でも、一体なぜ、おれは殺されなければならないのか。  やはり浮気がバレていたのか。確かに妻と結婚してから七年になるが、ときどき浮気をしていた。浮気は男の本能だと自分への言い訳にしてきたが、去年から付き合っているS子とはどうやら浮気では済みそうにない感じになってきていた。  やはり妻は知っていたに違いない。しかし、だからといって殺そうと思うとは……。
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