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第五十段階 長過ぎた片想い
「えっと、それは……」
―――私自身もよくわかっていない。白井部長が去った後姿を見送った夜に芽生えた切ない気持ちも、何故白井部長が心配でたまらなくなってタクシーを拾ってここまで来てしまった事も……。理解不能だった。
「嫌な事ばっかで俺、まいってたんだけど……」
白井は、貴子の肩を掴んで引き上げるようにした。白井の両方の瞳が貴子の瞳をじっと見つめている。
「藤谷さんがいれば、俺は大丈夫って気がする」
「部長」
じっと見つめられて改めて、白井部長のほれぼれするような顔の造作に見惚れた。
―――初めて、電車で会った時も思ったけど、部長は黙っていると超イケメンだ。黙ってればねえ。
ソファの上で、白井に腕を掴まれたまま向かい合って座っていた。
じっと見つめたままでいる部長の顔がだんだん赤らんでくる。それを見ていた貴子は、自分も顔が熱くなるのを感じていた。
「前に言った事覚えてるか? 少しでも好きになったら、それは付き合う一歩手前だって」
「はあ、そんな事を言われた気もします」
「あの時、もう既に少し好きになってた訳だから。今日は、もっと好きって事でいいよな」
「いいよなって。あの」
「じゃあ」距離を縮める白井。
「付き合おうか。俺達」
「嘘! 軽すぎる。尾田より軽いかも」軽々しい白井の口調にあきれ果てていた貴子。
「尾田に……澤口……なあ、他の男と比べんなよ」
妙に真面目な顔になる白井にたじろいでしまう貴子。
白井の整った顔が、貴子に近づいてきていた。
―――これって! キスするの? ええっとマジで?
焦りまくった貴子は、ティッシュを持ったままの手で口を覆った。
「なに、それ」
「なにって、あのティッシュです」
「今、それいらないけど」白井の長い指が伸びてきて貴子の手を掴んだ。
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