第五十一段階 冬越しの出来ないトンボ

2/5
前へ
/40ページ
次へ
例えるなら、白井はクールを気取ったシオカラトンボだ。 杏は、ただのエサに過ぎない。黙っていても冬越しの出来ないトンボに更なるダメージを与える為のエサだ。 間違えて、蜘蛛の巣にかかっていたエサに食いついた為に自らも蜘蛛の糸に絡まってしまったマヌケなシオカラトンボ。 もがけばもがくほどに、逃れられなくなる。 澤口は、ゆっくりとタバコを吸った。大きく体の中まで染み込ませるように吸い込んだ。 杏の役目は終わった。 杏は、もともと白井の事が好きだった女だ。振り向いてくれないと愚痴っているのを偶然に聞いて、いつか使えると踏んで落とした女だ。 外見レベルは、まあまあだが頭が足りない。 あとは、後腐れなく別れるのみだ。既に哲司に杏のことを頼んであった。哲司になびかない女はいない。いつでも哲司は俺が別れたい女を引き受けてくれる。女がその後どうなろうが知った事じゃない。ただ、通り過ぎて行っただけの女たちだ。情も持った事がない。 その場限りの女達だ。いつものように後腐れなく別れる。 澤口は、杏を使ってレイプ未遂事件をでっち上げ白井を陥れた。 ―――なぜ、そこまでするかって?  タバコが無くなった箱を握りつぶして、地面に落とした。 軽蔑の眼差しを送ってくる老婆と目が合った。     
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加