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第五十三段階 異性の事は異性に聞く
「初詣は、好きな男と行け。それが当たり前だろ?」
ブラックのニットスヌードを二重に巻いていた貴子は、あまりの寒さに首を亀みたいに引っ込めて駅までの道のりを尾田と並んで歩いていた。
スヌードを鼻先まで持ち上げていた。
「そう?」
「基本だ。基本。お前は大学まで出て何習ってきたんだよ」
「そんなの習ってないけど」
「甘いな。お前は。学生時代は、学問だけすりゃあいいのかよ? いろんな人と触れ合っていろんな人から色んな付き合い方を学ぶんだろうが。それが社会に出てからも役に立つ」
偉そうに語る尾田を横目で眺める貴子。
「尾田、偉そうだね」
「まあな。お前のアドバイザーだからな」
「はあ。いつの間にそんな肩書きなのさ」
「そんなこたあ、どうでもいい。善は急げだ。電話しろ」
顎で命令する尾田にいささかムッとしながらもスマホを取り出す貴子。手袋を外してポケットへしまった。
指先がかじかんでいる。
「ってどこに?」
「アホか! お前の好きな白井の奴にだろーが。言わせんな。頭にくる」
一人でいきり立つ尾田を眉間に皺を寄せて眺めてから、貴子は仕方なく電話をかけた。
傍で足踏みしながら、尾田が言う。
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