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手が下ろされた時点で、貴子は腹をくくっていた。
―――そうよ。キスぐらい何よ。29歳だし。初めてな訳じゃないし。それに思い出せばこの人とは、何回かキスしてる訳だし。今更、どうこういっても始まらない。
ぎゅっと目を閉じる貴子。
―――なんてことないのよ。たかがキスよ。男の一人暮らしの家に入り込んだ時点で何されても文句言えないというのが一般常識だもの。
口も閉じて、ごくりと唾を飲み込んだ。
―――まだ? ちょっと、長くない? 待たせすぎじゃない?
ぎゅっと閉じた瞼を細く開けてみると、ニヤニヤしている白井の顔が目に入った。
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