第五十段階 長過ぎた片想い

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何年か前に貴子に付き合ってた男がいた。結婚も考えていた程だった。結局、男の方に新しい女が出来て貴子は振られた訳だったが……。 尾田の気持ちを少しも知らなかった当時の貴子は、嫌って言う程のろ気話を尾田に聞かせてきた。アツアツの頃、携帯の画面を見てはにかんだような笑顔を見せていた貴子。あの頃の顔と同じだった。 ―――あの時、俺は藤谷が幸せなら……。あんな笑顔が見られるならって藤谷を諦めたんだ。でも、結果はどうだ?藤谷は、幸せになれなかった。結局、俺が男に振られて泣く藤谷を慰める羽目になったんだ。 「藤谷」じっとしていられなくて、尾田は貴子の肩へ手を置いた。 「なに?」 驚いたように手にスマホを握ったまま、尾田を見上げる貴子。 貴子の手首を掴んで、廊下をずんずんと進んだ。 突き当たりにある階段へ続くドアを開けて、尾田は貴子の手を掴んだまま階段を下りていった。 「尾田! 止まってよ。どうしたの? 急に」 階段の途中で尾田は貴子の手を離して、自分は階段の踊り場まで下りた。 後ろを向いて尾田は、階段の途中に立つ貴子を見上げた。 「尾田?」 下りて来ようとする貴子に 「ストップ!」腕を伸ばして掌を広げて見せ『来るな』と言うように貴子に向けてくる尾田。     
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