赤いしおり1

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 詳しい経緯は忘れてしまいましたが、その日、私は先生のお宅にお邪魔していました。ウィスキーを頂きながら、先生の収集物自慢を拝聴していたのです。 「これが私のコレクションだ」  先生が見せてくださったのは、しおりの数々です。 「旅先で買ったもの、友人から土産でもらったもの、神田の有名書店でもらったもの……など色々だ。しおりを眺めていると、その時々のことが思い出される」 紙製のしおりだけでなく、革や金属のものもありました。形も様々です。 「しかしまあ、土産でもらったものは眺めるだけになってしまうな。外出する時に持ってゆく本には、これを挟んでいるよ」  先生が見せてくれたのは長方形の厚紙です。表には紅茶会社のロゴがプリントしてあり、裏には紅茶を使ったお菓子のレシピが記されています。 「ティーバッグセットの底に敷かれていたものだ。レシピには色々な種類があって、集める楽しさもある。しかも、本に挟むと馴染みがいいんだ。文庫にも新書にも、しっくりと挟まってくれる」  なるほど、そのようなものかもしれません。金属製のしおりや革製のしおりはお洒落ですが、何かの拍子に本の間から抜け落ちてしまいそうです。 「だが……」  先生は少し遠い目をしました。 「家ではこれを使っている」  見せてくださったのは、やはり長方形をした紙です。先ほどの紙よりも細長く、厚さは薄いようです。色は赤で、真ん中に『Ⅰ』という文字が印字されていました。ローマ数字だと思います。長方形の長い方の二辺にはミシン目が施されています。どこかから切り離されたものでしょうか。 「君は、トリアージという言葉を知っているかね?」  その言葉には聞き覚えがあります。確か、大規模災害などの医療現場で、患者に治療の優先順位をつけることだったと思います。 「医師による患者の選別だ。救命の見込みがない者は見捨てて、助かりそうな者に人的資源を集中しようということだな」  大勢の患者が同時に発生する状況では、それもやむを得ないのでしょう。 「トリアージには専用のタグが使われる。通称トリタグだ。葉書を細長くしたくらいの紙でね、下の方が四層に色分けされている」
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