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不幸が幸せ
マンションの階段にカンカンとこだまする足音。
カンカン
カンカン
藤本りさは階段を駆け下りながら小さな手で涙をぬぐった。
何度も何度もぬぐった
だが涙は止まらない。
それを打ち消すようにして二段飛ばしで階段を飛んだ。
ピンク色のワンピースがフワッと舞い上がる
それにつられて、肩まで伸びた艶やかな髪も揺れた。
やがて、りさはマンションの外に出た。
街灯があるだけの暗い夜道が少しだけ心地いい。
街灯に照らされたりさの頭に‐明日から1か月間出張に行く‐と言っていた父の顔が浮かんだ。
勝手にいけばいいじゃん。
私は文字通り、悲劇のヒロインにでもなった気分で大きな満月を見上げた
ふと、
この世界は自分が不幸になるためだけに作られたものなのかもしれないと思った。
最近の私はいつもこんなことばかり考えている
バカみたいだ…
りさは瞬きもせずに春の満月を見上げつづけた。
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昨年の春も、りさはこの満月を見上げていた。
切り過ぎてしまった前髪を指先で触りながら「はぁ」とため息をつく。
明日から中学生なんだよ?
こんなんで学校に行けるわけないじゃん。
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