序 「集結1」

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(くさ)(ばね)市。  町の北部には海、南部には山地を要する、人口約十五万人の町だ。  南部の山地には神道の信仰を集める木霊神社が位置し、高台のように町全体を見下ろしている。麓は住宅、マンションなどの居住エリアとなっている。。町の中心にはスーパーやショッピングモールが密集し、東には小学校や中学校などの教育施設が点在する。北には緑恩寺という寺があり、毎年この町では大晦日の夜にこの寺から除夜の鐘が響く。 この地は、古くから幽霊や妖が湧き出す霊場として知られており、常に危険に晒される可能性のある場所であった。そのため、陰陽寮の指揮の下、常に町全体に結界を貼る事で、全国へと脅威が広がる事を防いでいる。結界とは、陰陽師が使用する術の一つで、その効果は多岐にわたる。人の出入り自体は問題なく可能だが、術者が通る場合は、結界の管理を行っている安倍家の見張りを通じなければならない。無理矢理通ろうとすれば、強い呪力・妖力を持つ存在は弾かれてしまう。 妖は、生まれつき霊感のある人間でなければ感じる事は出来ない。そのため、町の住人は、その土地の特異性についてなど微塵も知りはしない。毎年、大晦日の夜に、陰陽師などという怪しげな人間が町の中を駆け回っている事など毛ほども知らないだろう。だが、それで良い。市井の人間の生活の影で、その営みを守る存在。それが陰陽師であるからだ。表に現れ、ヒーローのように人助けをする事は、本質的には外れている。千年前の貴族社会ならまだしも、現代においては、陰陽師という職種はそう言った影の存在という認識が同業者の中では一般化されていた。  大儺儀は、一年を通して蓄積した陰陽の歪みを修正する儀式。世界に溜まった怨念、気の乱れが積り積もって、「癘鬼(れいき)」として世界に現出する。それは各地の霊場で等しく起こり、そのいずれにおいて、陰陽師による祓いが行われる。安倍晴明が考案したこの儀式は、五人一組で行われ、手順さえ守れば、いかに強力な「癘鬼(れいき)」であっても、黄泉の国へと祓う事ができる。  成功が約束された儀式。失敗の可能性などまずあり得ない。  例え大嶽丸を相手にしたとしても、それだけは変わる事のない絶対の法則だ。
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