2人が本棚に入れています
本棚に追加
三つ目の別れ
それは、道の真ん中にあった。3つしか建物のない、村と言えるのかどうかすらわからない村だった。
ひとつは道具屋。ひとつは武器屋。そして、ひとつは宿屋。
私はまず、道具屋に立ち入った。
「!いらっしゃい!お客さん!何か買っていくかい?見ていくだけでもいいよ!」
とても元気な店主が迎えてくれた。
「……失礼、少々お伺いしたいのですが」
「おう!なんだい?」
店主はにこやかに答えた。しかし、私の次の質問で顔が曇ることになった。
「勇者のことを、お聞きしたいのですが……」
「勇者……あぁ。勇者、ね……」
店主は振り返り、カウンター裏に飾ってあったものを手に取って見せてくれた。それは、美しい鈴蘭の彫刻の施された、ロケットだった。
「……それは?」
「こいつァな、勇者が売ったものだ。……昔ある母親が胸につけていたのを俺ァ覚えててな。こうして、あの母親が取りに来るのを待っている」
店主は少し悲しそうに、ロケットを見つめていた。そして、静かに語り始めた。
「……昔、この辺りはもっと……こんな3軒だけじゃなかったんだ。他の村より少し豊かでね。商人とか旅人の憩いの村とまで言われていたのさ。しかし、魔王が現れ、勇者も当然この村にやって来て……まるで強盗の様に何もかも持って言っちまったのさ」
店主は拳を握った。その怒りはよくわかった。
「しかも、勇者は王国からのお客様だ。手を出せばしょっぴかれる。…こんなものさぁ、世の中ってのは」
店主は、そのロケットを元の場所に戻した。私は、懐から一枚の写真を取り出し、見せる。
「その男は、この男ですか?」
店主はその写真を見て驚いた。そして、私の顔を見て言った。
「あ、あぁ!間違いない!だがあんた……どうして、この男の写真を……」
「……この男は、勇者ではありません。指名手配されていた男でした。……今となっては、もうどうすることも出来ません……しかし」
私は、先程のロケットがあるであろう場所を見た。この位置からでは、ロケットは目視できなかったが。
「そのロケットを、母親に返すことはできます」
「……ほ、本当かい!?……い、いやしかし……あの母親は……」
店主は言葉をにごした。
「……一緒に行きますか?その母親がいる場所はここからそう離れていません。……あなたも、よく知る場所ですよ」
店主は、驚いたかのように目を見開いた。そして、静かに頷くと、店を閉める用意をした。
最初のコメントを投稿しよう!