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私たちがやってきたのは、少し離れたところにある場所だ。
「……こちらです」
店主は、ひとつの石の前に立った。そして、目を見開いた。
「……そ、そんな……まさか……!」
店主は、私の服を掴んだ。
「ふざけんじゃねェぞ!ここは…ここに居るのはッ」
私は、その石に目を落とした。そこには、ある女性の名前が書かれていた。
「……ふざけてはいません。私も昔、この女性にあったことがありましてね……もっとも、その方は生きた人間ではありませんでしたが」
そう、ここは墓地。亡くなった人が乱雑に眠る、共同墓地の中でも、この下に眠る人は、かつてこの村を収めていた地主の、その娘の墓だ。
「嘘つくんじゃねぇ!このお方はなぁ!このロケットが盗まれた前の日には村を離れていたんだ!!それに、今は王都で暮らして……」
「それは、お姉さんの方ですね。……私が言っているのは、妹さんの方ですよ」
「……いも……うと?」
店主は、目を見開いた。
「えぇ。いわゆる、隠し子です。彼女は、昔からひどい扱いを受けていたそうで。成長してからは独立し、結婚もしていたそうですよ。……もっとも、あなたの店を訪れたあと、あの男に辱めを受け、無残にも亡くなったそうです。……姉の身代わりに」
「……そ、そんな……」
店主は、膝から崩れ落ちた。私は、ただ墓石を見ていた。
「……あんた、どうしてわかったんだい。ここに、このロケットの持ち主がいると……」
「……私は、その事件のあと、この村を1度訪れていたのです。その時に、教えて貰ったのですが……私は、その問題を解決する手段を、そのロケットの在処を知りませんでした。……ですが、ようやく返すことが出来ます」
店主の手に握られたロケットを受け取り、墓の前に置いた。すると、墓が光りだして、青白い炎が浮かび上がった。
「……あ……あぁ……そんな……」
炎は、美しい女性の姿に変わった。そして、女性が店主の手を握る。すると、店主も青白くなった。
「……良かったですね。奥さんと会えて」
「……あぁ……全て思い出した。ありがとうなァ」
そう言って、2人はにこやかに消えていった。店の方に戻ると、そこには建物ひとつなかった。全て、あの店主の記憶が作り出した産物だったことを意味していた。
「……まいったな。また、歩かなきゃ行けないのか……食料が心配だな……」
そう言って、私はまた歩き出した。
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