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道中の別れ
広い高野に、ボロボロの道がずっと続いていた。ただひたすらに、私は歩く。
しばらくすると、道の真ん中に魔物がうずくまっているのが見えた。魔力が溢れているから、間違いない。
「あの……」
すると、魔物はこちらを振り向き、私の胸ぐらを掴んできた。
「グゥルル……」
「……」
私は何も言わずに、ただじっと魔物を見ていた。狼に近い姿をしていた。
「……あなたに危害を加えるつもりはありません。離していただけますか?食事でもしながらお話をしましょう」
魔物は、じっと私を見ると、ぱっと手を離した。私は襟を直して、鞄から干し肉を取り出す。
「……どうぞ」
『……と』
魔物は恐る恐る干し肉を受け取ると、匂いを嗅いで、口の中に放り込んだ。とても美味しそうに食べた。
『……きみ、なにもの?』
「何者……とは?」
『……ゆうしゃの、においがする。でも、ちがう……』
魔物は鼻をひくつかせて言った。そして、首を傾げている。
「……私は旅人です」
『たびびと。たびびとさんは、どうしてたびをしているの?』
魔物は、私が渡した干し肉をまた受け取り、少しずつ食べた。
「……勇者について、聞いて歩いているのです。何か知りませんか?」
すると、魔物は尻尾を振った。
『ゆうしゃ!ゆうしゃ!しってる!ぼくしってる!』
その姿は、とても嬉しそうだった。まるで、飼い主を慕う犬のように。
『ゆうしゃ、やさしい!いい人!ぼくのあたま、なでてくれる!いっぱいあそんでくれた!つよい!』
魔物は嬉しそうに語った。今まで聞いた話とは、随分印象が違うな……。
「優しい?」
『うん!ぼくよわくて、でも、ゆうしゃ、たすけてくれた!だれもきずつけずに、おいはらった!』
魔物はそう言って、目を輝かせた。
『でもね、ゆうしゃ、ねたとき……こわかった』
「怖かった?どのように?」
魔物は俯きながら語る。
『ゆうしゃ、ねると……まもの、ころした。いっぱいいっぱい。ゆうしゃじゃ、なかった』
魔物の目に、涙が溜まった。
『ゆうしゃ……かなしそうだった……くびかざり、ぴかーってひかって、そしたら、ゆうしゃじゃなくて、ゆうしゃ、おきて、なきそうだった……ぼくも、かなしかった……』
勇者が寝ると首飾りが光り、勇者じゃなくなる……どういう事だろうか。
『ゆうしゃ、いっぱいかなしくて、ねないようになって、ゆうしゃ、ここでまっててって、いなくなっちゃった』
魔物は、ポロポロと涙を流して言った。
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