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「……ありがとうございます。お話が聞けてよかったです。……なので、」
私は魔物の頭を撫でた。
「もう少しだけ、ここで待っていただけませんか?」
魔物の表情は一瞬ぱっと明るくなったが、すぐに不安そうな顔に変わった。
「……その表情になるのも無理ありませんね……どうしましょうか……」
私は少し考えて、カバンの中を探る。1つ、上げられそうなものがあるが……これは、必要なものだからおいそれと誰かにあげるわけにはいかない……。と考えていると、首元にかかっているに触れた。何故か最初から、私の首にふたつも掛けられていた物だ。私は、それをひとつ外した。
「では、こちらを」
そう言って、魔物の首にかける。
『なに?』
「ペンダントです。長くつけていたものなので、私の魔力が宿っています。私も同じものをとつけているので、それを通して、私の様子を見ることも出来ます。それに、何かあった時のために、役に立つでしょう」
魔物は、烏の彫刻が施されているペンダントをじっと見て、表情が一気に明るくなった。
「……待ってて、下さいますか?」
『うん!まつ!ぼくまつ!たびびとさん、まつ!』
魔物は尻尾を振って、嬉しそうに笑った。正直、ここまで素直だと、心配になってくる。
「……それでは。また会いましょう」
『うん!たびびとさん!またね!』
そう言って、また歩き出す。少し振り返ると、魔物はこちらを見て手を振っていた。
「……ッ」
頭が痛い。やはり、私は……。痛みを振りほどくように頭を振った。それても、頭は痛い。胸が苦しくなってくる。
「……私は……私は……ッ」
ズルズルと重くなっていく体を引きずって、歩を進める。さっき散々休んだのに、体が石のように思い。
「行か……なくては……」
そう、行かなくては。私は、行かなくてはならないのだ。そのために、ここまで来たのだから。
私は、鞄からあるものを取り出す。それを握り締めて歩く。そうでもしなくては、歩けない気がした。
そして、もうすぐ私の旅も終わりを告げる。
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