01° 雨のように滴る。花のように儚く

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 6月上旬。雨。  しんしんと降り注ぐ雨の中、教室や廊下でふざけ合う者。一方では帰り支度をする者。それぞれが思うままに今日の終わりを迎え、また一方ではこれからの活動の準備をしていた。  湿気や冷たい気温に負けず活気な姿を見せる彼らとは裏腹に、校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下では、クスクスと含み笑いを浮かべる女子が放り投げたバケツが廊下に転がり落ちる。彼女たちは、びしょ濡れで呆然と立ち尽くす少女に蔑むような視線を送った。 「身の程を教えてやったのよ。先輩にちょっと優しくされたからって、調子に乗らないようにね」  着こなしの悪い女子。スカートが短く、ネクタイもせず、邪魔くさいのかブレザーを脱ぎ捨て、袖をまくり、上のボタンは外れていて鎖骨が露になっている。茶目で、髪の毛はボサボサの茶色のボブカット。  高らかに笑い上げながらその場を去っていく女子とその取り巻きたちを見送った少女は、瞳を伏せながら、頬に張り付く奇抜な色の髪を耳にかきあげた。無造作に投げられたバケツをそっと拾い上げると、丁寧に、通行の邪魔にならないよう、廊下の外にそれを置いた。  Vネック型の黄色いベストの下では、肌に張り付いたシャツが気持ち悪い。スカートから下は無事だったものの、今日の気温に体を震わせ、涙が零れそうになるのを堪えながら、とぼとぼと歩き出した。  肩を落とし、俯きながら廊下を通っていくと、周辺の生徒たちは少女を見かけるや否や、距離を置いてクスクスと笑い出した。「いやだ。なにかしら?」「なんであんなに濡れてるんだろう?」ちくちくと刺さる視線を受け止めながら少女が教室へ向かっていると、正面から歩いて来た男子と肩をぶつけてしまった。 「いった。ちょっと何やってんの、変色」 「すっ、すみません……」  この少女、名を「ラグ=バケット」という。  青いブレザーに黄色いベスト、赤いネクタイ、そして赤いスカートに青いソックス。  1ヶ月前に、この「華ヶ咲学園(はながさきがくえん)」の中等部に転入してきた。母親がこの国の生まれで、父親が西の国の生まれ。いわば少女はハーフである。特殊な色を持った毛並みのせいか、よく「変な髪の色」や「変色」などと、泣き虫や間抜けなどを差し置いたアダ名を付けられた。昔からのコンプレックスで、よくこのヘアスタイルを同級生にも年下にも年上にも弄られてきた。
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