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朝の街は比較的穏やかだ。
盗賊たちはまだ現れていない。
人々は足早に食料を買いに店へ入って行く。
ちらりと覗いた狭い店内には、あまり新鮮とは言えない果実や野菜が並んでいる。
くたびれた葉物や痛みはじめた果物たちも調理すれば食べることはできる。
幼い頃を思い出してぎゅっと手を握った。
屋敷で働くようになってからは少しはマシなものを食べられるようになったのだ。
……それも行商から購入した、主人の残りと傷が入って安くなったものだけれど。
街の広場までやってくると、暇そうに煙草をふかす無精髭の行商人がいた。
それもそのはず、街の人々はここには買いにこないから。
艶のある林檎を2つ手に取る。
それから朝一に採られた卵や牛乳。
純白の小麦粉と、メモに追記された魚や肉は値が張るものばかり。
まだ瑞々しい野菜も購入する。
金色に輝くバターなんて、あの頃は見たことも無かった。
金貨と銀貨を数枚手渡してため息をつく。
このお金があれば、人々はもっとまともな生活を送ることが出来るのに。
怠そうに欠伸をする彼は、また午後に来るだろう。
今度は夕食の買い出しに来なければ。
毎晩屋敷に騒ぎ立てに現れる、盗賊たちの晩餐用だ。
気分屋の主人に合わせディナーを用意する。
煩わしいけれど仕方の無いことだ。
ずしりと重くなったカゴを手に、わたしはまた朝の街を歩き出した。
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