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「盗賊だ!逃げろ!!」
来た道を戻る途中で大きな声が聞こえた。
人々は動揺し、散り散りに走り去っていく。
店主たちは慌てて幕を下ろし始めた。
転倒する人や衝突する人々。
幸いなのは泣く子供がまだここに居ないことだ。
咄嗟に物陰に隠れたわたしは建物の間から様子を伺う。
屋敷のメイド服を着ていればヘマをしない限り大丈夫なはずだが、それでも隠れずに居られないのは幼少期のトラウマからだ。
ごくりと唾を飲み込み、嵐が過ぎ去るのを待つ。
盗賊たちは下卑た笑い声を街に響かせ、落とされた果物を踏み躙る。
行商人たちは帽子を外し、彼らに恭しく一礼をした。
新鮮なオレンジを手に取って銀貨を指で弾くように渡す彼ら。
そのまま齧り付き、滴った汁を乱雑に拭う。
早く去ってくれと心の中で願った。
やっとのことどこかへ向かう彼らにほっと胸を撫で下ろしたのはほんの束の間だった。
1人の幼い少女が彼らの前を通り過ぎた。
まだ4、5歳であろう彼女は継ぎ接いだ赤いワンピースを翻す。
色の着いた服を身に付けている人なんてこの街にはほとんど居ない。
皆、同じように薄汚れた服だから。
ましてや目立つ赤なんて。
幼いだとか少女だとか、彼らには関係ない。
……必要なのは金と権力。
少女が見逃される筈が無かった。
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