あたし

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窓から屋根に飛び移る。 音もなく屋根から屋根を飛び回り、たどり着いたのは一軒の家。 わたしは二階の窓をコンコンとノックする。 出てくるのは短髪の青年だ。 「ハァイ、ご機嫌よう。頼んでいたものは出来たかしら?」 青年はあたしと同じ青い目を得意げに輝かせる。 「もちろん、そっくりに作り上げたよ」 手渡すのはあの家族が盗られたネックレスや指輪に良く似たもの。それと、ハゲ親父のコレクションの中にあるダイヤの腕時計の偽物だ。 水晶はただのガラス玉に、真珠や宝石はビーズに作り替えられている。 「あら上出来じゃない!流石ね」 あたしはそれを受け取ると、報酬の金貨を数枚渡した。 「僕が作ったからね。じゃあ気をつけて、姉さん」 彼はあたしに手を振った。 腕に残った大きな傷。あたしは大袈裟に肩を竦める。 「姉さんはやめて。あたしは『ミス・ブラック』よ!」 今や立派な職人となった弟に投げキッスをする。 苦笑いをする彼にため息を残してあたしは隣の家の屋根に飛び移った。 今夜は月が綺麗だった。
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