あたし

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あたしは細い金属の端材で鍵を開ける。 盗賊たちはよく眠っていた。 部屋に忍び込んでお目当てのものとすり替える。 このクソ親父共も、あのハゲも、物が変わったことにはどうせ気づかないだろう。価値のあるものは価値のある人が持ってこそ輝くのだ。 盗み返したところでなんの問題も無い(と、あたしは思っている)。 忍び込んだ証拠を残さないように、あたしは慎重に部屋を見渡す。もっとも、そんなヘマなんてしないけれど。 夜が開けるまでもう少し。 最後の仕事がまだ残っている。 星空の下を駆け、街を急ぐ。 昼間のあの親子の元へ。 頬に当たる風が気持ちいい。 姿を見られぬように、街へ降り立った。 ぼろぼろの家は変な細工なんかしなくても開いてしまう。 抱き合って眠る家族の枕元に取り返したものを全て置いた。 白いカードにインクを走らせる。 『ミス・ブラック』。 カードに口付けた。 早くこの街から出て幸せに暮らして。 そう願いを込めながら。 真っ赤なキスマークを残し、あたしは家をあとにした。
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