あたし

4/4
前へ
/18ページ
次へ
ああ、疲れた。 屋敷に戻ってあたしはすぐさまウィッグを剥ぎ取った。 身体を締め付けるボンテージのファスナーを緩め、濃い化粧を落としていく。 鏡の前に座るのは、もう一人の『わたし』。 『わたし』は『あたし』のことなんか知らない。 夢を見ていると思っているらしい。 それでいいのだ。 汚れ役は『あたし』一人で充分だもの。 『あたし』は『わたし』を守るために生まれたの。 いつかこの街の住人が一人残らず幸せに暮らせる日まで。 奴らはもう少し泳がせてから、この国で一番力のあるお巡りさんに突き出す予定だ。 しっかり罪を償って貰うために、計画は念入りに立てておかなくちゃ。 それから何事も無かったように『わたし』はベッドに潜り込む。 ふわあ、と出る欠伸。 そっと目を閉じる。 おやすみ、『あたし』。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加