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私は産まれてからずっと気になる人がいる。それは私の父だ。
私は父の笑顔を見たことがない。物心ついた時から50になる今の今まで一度もないのだ。父の娘なのに。
父は几帳面で、真面目で、物事は計画をきっちり立てて行動したり、典型的なA型人間だ。私や母がテレビを見て笑っていても、いつも新聞ばかり見ている。
「このテレビおもしろいよ。お父さんも見ない?」
「うん?そうだな」と、いつもどっちともつかない返答ばかり。
口癖は「俺はA型だから」私と母に向かっては「お前らはO型だから」と、毎度それの繰り返し。
お父さん、笑わないのはA型だからじゃない。お父さん自身の問題だよ、といつも思っていた。
そんな父がこの世から去ろうとしている。もう余命が短いらしい。父の願いで、病院から自宅に戻してもらった。痩せ細り、弱々しい父になんと言葉をかければいいかわからなかった。
すると、ふと父が私を呼んだ。
「どうしたの?」
「なあ、わしの娘で幸せだったかい?」
思いもしない質問にびっくりした。
「当たり前だよ。お父さんの娘で本当に幸せだよ。今までありがとうね」
私がそう言うと、ニコっと笑ってくれた。
私は最期に父の笑顔を見た。
父が亡くなり、色んな思い出があるが、最期に見せてくれたあの笑顔はずっと忘れないだろう。A型だから、O型のお前らのように笑わないといつも言っていたA型の父の笑顔。
父の血液型は死ぬ前にAがOになり、とびっきりの笑顔を見せたのだ。
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