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夜のホームで待ち合わせ
夜のホームで、彼は電車を待っている。
事の始まりは、彼の携帯端末にメールが届くようになったことだ。
ずっと気になっていたその相手に、彼は初めて返信をすることにした。
「はじめまして。ごめんなさい。
あなたが今までこのアドレス宛てに出していたメールは、全て僕のところに届いていました。あなたのメールは、受け取るべき人ではなく、僕が読んでしまっていました。
本当はもっと早くにお知らせしなければいけなかったのに、できませんでした。
あなたからのメールが嬉しかったからです。
僕の家族とは、僕が進学して一人暮らしをはじめてから、一度も連絡がありません。
もともと冷めたところのある家庭でした。子供の頃から、食事は冷蔵庫に入っているものでした。家に全員がそろっていても、それぞれが温めて、ばらばらで食べる。そういうのが、ぼくの家族でした。血のつながった他人でした。
それが日常であった僕には、どこかに欠陥があるのだと思います。友達がいません。バイト先でも浮いています。連絡をくれるような人は誰もいないのです。
あなた以外には。 あなたからの間違いメールが届くようになり、僕はよく考えるようになりました。
あなたのメールにある、寂しい、というものがどういうものなのか。
あなたはきっと、人に囲まれて生きてきたのでしょう。
僕には、寂しくない時などなかった。だから寂しいと思うこともなかった。それが当たり前だったからです。
そう気づいた時、世界に新しく色がついた気がしました。それはとても幸福なことでした。胸を締め付けるような青だったとしても。
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