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「周りの人はみんな優しくて、優しい嘘付きなんです。昨日の続きに今日があって、今日の続きに明日があると錯覚させてくれる」 「でも先輩はちがいます」 「俺は冷たいだろう?」 「違います!逆ですよ。先輩は優しすぎるんです。優しすぎて、真面目だから嘘がつけないんです」 先輩はなんて言ったらいいかわからないと言うような顔をした。 しばらくして、顔を上げた先輩の瞳は何かを決意したかのように、熱い。それをひたと合わせて来る。 「北村、俺はお前と恋がしたい。さっきまでの受け身とは違う。他でもないお前と恋がしたいんだ」 __気づいたんだ。と先輩は続ける。 「お前はいつも前向きで、なにも考えていないのかと思っていた。でも、さっきのでわかった。お前は現実から逃げているわけでもなんでもなく、ただ全てと全力で向き合って大事にしているんだ」 「そんなお前が眩しくて、好ましいと思う」 「俺と恋をしてくれるだろうか」 「先輩、逆になっちゃってますよ。私からお願いしたのに」 辺りはおそらく太陽が最後に放ったのであろう流れ星でいっぱいだった。確実に終わりに近づくカウントダウン。 その不思議な世界で、先輩は私をゆっくりと抱きしめた。 「これを嘘にはしない。世界の終わりには俺たちは本当の恋人だ」 そして、私たちは初めてのキスをした。     
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