2. P.S. I Love You

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 そういえば君は、なんだかさっきから、やけになにかを気にしていそうな顔をしているじゃないか。ああ、なんだ。そんなことだったのかい。もちろん僕は英語なんてちっとも書けやしないし喋れもしないよ。言ってしまえば文字なんて、日本語だって一つもかけないさ。なんたって、僕の右腕が言うことを聞かないんだ。あいつ、なにもかも捻じ曲げちゃって、ぐちゃぐちゃの線しか引きやしないんだ。左腕はもっとポンコツさ。ペンだってまともに持てやしない。そんなんだから、僕の利き腕はきっと右腕なんだろうなと思っているよ。こんなのが利き腕なんて、まったく泣けてくるよ。  だから僕が書いていた手紙っていうのも、全部心の紙に書いていたのさ。心の紙ってのはだから、今君に話していることなんかも全部心の紙に書いていたものなんだ。  そんな話はどうでもよくって、英語もかけない僕がなんでP.S. I Love Youなんて言葉を知っているのか、っていうのを話そうと思っていたんだ。  昔、P.S. I Love Youっていう歌があってね。僕はよく耳にする機会があったんだ。それを聞いていたころ、はじめは僕のパパが歌っているもんだと思っていたんだけどね。よくよく後になって聞いてみると、なんとかっていうイギリス人が歌っていたみたいなんだ。イギリス人っていうのは、なんでも海の向こうのすごく遠いところで暮らしているらしいよ。そんでもって英語を、つまり「P.S.」だとか、「I Love You」だとかっていうふうに会話をするらしいんだ。な、へんてこだろ。まあ、そんなわけで僕のパパなんかとは全く関係ないんだ。  とにかくさ、そのイギリス人の声が、僕にはやけに心地よく響いて聴こえたんだよね。共鳴するっていうかさ。僕たちの心は海を越えて通じ合っていたんだ。その声を聴いていると僕はこうして、親指を咥えながらさ―まだその時はそんなだらしない癖が残っていたんだ。もちろん、今はやらないよ。うん。そんで丸くなって眠っちゃうんだ。  僕が特に好きだったのは曲の中の、You You Youって歌詞のところだな。思わず一緒になって歌いたくなっちゃうんだ。
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