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 あれはいつだったか。父が亡くなって数年してからだ。小学一年か二年か。  多月家の屋敷に母と卓実ともにホームパーティーに招待された。  豪奢で広壮な屋敷には大広間があって、そこには多月の子供のころと思われる写真が飾ってあった。  長いテーブルに招待客が並び、シェフが奮う高級店でしか口にすることのできないフランス料理をコースで出された。小学生だった七海は作法などほとんど知らなかったので、味よりも食事することに奮闘していた。ナイフやフォークを上手く扱えず、料理を皿から何度も落としたが、子供だからと見逃してもらえた。  食後他の家族らが和やかに歓談している中、七海は一人で庭を探検していた。弟の卓実は当時甘えん坊で人見知りで母にべったりだったので、こちらに付いてこようともしなかった。  広い庭には様々な種類の木が植樹されており、季節の花々によって見目鮮やかに彩られているのが印象深かった。そこにはアイアンの長椅子があって、背もたれにはツルバラが巻きついていた。  どうやって巻かせているのだろうと椅子に乗り上げてつるを触っていると声がかけられた。 「これ、人が巻きつけているんじゃないよ」  どこからともなく現れたのは屋敷の一人息子である多月だった。当時中学生だった。  今と変わらず穏和な表情で微笑んできた。
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