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「可哀想な子を可哀想と思っちゃいけないの?」
「じゃあ君はお父さんがいなくて可哀想だって言われたらどう思うの?」
問われて、確かにそれはあまりいい気分がしなかったので、多月の言うことを否定できなかった。
「嫌」
「どうして?」
「可哀想じゃないから」
「それならきっと水落くんもそう思っている。僕は可哀想な子じゃないって」
「そっか。わかった」
要するに、自分が言われて嫌なことを人に言っては駄目だということだろう。母からもいつもそう言われている。
「君はお父さんが亡くなった時とても泣いていたけど、もう平気になった?」
「わからない。でもお父さんに会いたいって思う」
「そうか。そうだね」
「お兄ちゃんはお父さんがいていいね」
「あの人は僕のお父さんじゃない」
「お父さんじゃないの? 警察の偉い人だって聞いたよ」
「僕のお父さんは死んだじゃないか。君も葬式に来てくれた。憶えていない?」
「憶えてない」
「一昨年のことだからもう憶えていないかな」
「あ、あの雨の日にいた?」
「いたよ。君は青い傘を差していたね」
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