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 その衝撃的な言葉を耳にして、その時の微笑みを前にして、すべての思考は止められた。  だからその後多月とどんな会話をして、どんなふうにそこから帰ってきたかさえも憶えていない。  子供のころの記憶だから、多少は誤って憶えているはずだ。  でも最後の台詞だけは鮮明に憶えている。  それを誰にも言えなかった。おそらく多月とその時約束させられていた。  『これは二人だけの秘密だよ』、と。  人に言ってはいけない話だと強く胸に刻んだのは、物騒な言葉のせいだった。  殺された。  父は交通事故で亡くなったと聞いていた。ひき逃げで死亡したと。  ひき逃げを暗喩的に殺されたと言っただけだろうか。  確かにそういうニュアンスで表現してもおかしくはない。実際殺されたようなものだ。犯人がいて、逮捕されることなく逃げ切り、その後の人生を何のお咎めもなく安穏と生きているのだろうから。  それとも、単に交通事故ではなく、何らかの意図を持って殺害されたということ?  殺されたという表現を素直に受け取るなら、そこに明確な殺意を感じる。  気になるのは、何故多月がそんなことを知っているのか、ということだ。
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