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 しかしその死に疑問点があったからこそ多月は調べているのだろう。  敬二郎が亡くなったことにより、既に両親が離婚し、母親がいなかった彼は伯父の恭一郎の養子となったらしい。  恭一郎夫妻には子供が一人いたが幼少時に亡くなっていて、当時他に子供がいなかったこともあり、多月を引き取ることを厭わなかったのだろう、と母は言っていた。  七海が母から聞いているのはその程度の情報だ。もしかしたら詳細は誤りがあるのかもしれないし、多月に訊けば教えてくれるのかもしれないけど、そうしていない。  だって多月の事情に首をつっこむということは、彼の内偵に七海も協力することになり、それはつまり引き返せない事態になりかねないということだからだ。  だから七海も、父について知っていることがあるなら教えてほしい、と多月に詰め寄りたかったが、ずっと深入りできずにいる。  怖いからだ。  まるで底の視えない深い沼に足を踏み入れるような恐怖がある。  父の死の真相が知りたい。そのためには警視庁に潜入する必要がある。そう思って入庁を果たし、二課を希望した。つまりこれで多月の望む状況になった。いつでも彼の右腕として内偵捜査ができる。
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