16/21
前へ
/429ページ
次へ
 『水落』。その名前を耳にしただけで独特の緊張感が背筋を走る。  ここでは特捜部のエースという呼び名のほうが定着しているが、七海は水落という名のほうがしっくりくる。  いや、最初は雨宮だったらしい。親戚に引き取られて水落という名になったと聞いている。  誰に聞いたか。それは亡き父だ。  彼の家族を摘発したのが、七海の父親らが当時所属していた警視庁刑事部捜査二課。  その中には現在の警視総監、多月恭一郎(たつききょういちろう)もいた。  水落が小学一年生の時、かれこれ二十五年ほど前に、彼の父親である雨宮真治(あまみやしんじ)衆議院議員を摘発、強制捜査、逮捕に至った。  けれどその後不起訴となり、雨宮議員は釈放。  そこまでは一般的な政治家の摘発の流れだが、数ヵ月後家族は一家心中を図った。睡眠薬を飲み、屋敷に火を放ち、全焼した。  そんな中、一人だけ助かったのが雨宮議員の末っ子だった。  まだ七歳だった。薬を飲んだ上、自力で逃げ切るのは難しいはずだった。  当時どうやって助かったのかが不明で、すべてを知る唯一の生存者である水落が一切の真実を語らなかったことから、謎のベールに包まれたまま、世間では騒動となったらしい。
/429ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5472人が本棚に入れています
本棚に追加