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 そのため、週刊誌が皮肉たっぷりに出まかせ記事を書いた。  水落を『悪魔の子』として祭り上げた。  幼い彼はそのころから利発だが生意気で、一部の同級生らに嫌われていた。だから取材に応じた彼らが、面白おかしく『一家を殺したのはあいつじゃないか』などと囃した。  マスコミはネタに飢えていたようで、それに踊らされて七歳の水落を悪者に仕立てあげた。  そのように父から聞いている。どこまでが事実でどこまでが大げさに脚色されたものかはわからないけど、ひとつだけわかっていることがある。  父は幼い水落に同情していた。可哀想だと思っていた。  毎日何ヵ月も観察している対象者に情が移ることがあるのだと言う。  もちろん被疑者ではなく、その家族に。自らに子供がある者は特にその傾向が強いという。  だから不幸になった子供のその後が気になる。風の噂で耳にするたび、父は言った。 『施設にいたけど親戚に引き取られたらしい。良かった』 『学校でいじめられていたようだけど、今はなくなっているらしい』 『元気に学校に通っているようだ。もう事件のことを忘れているといいけど』  水落くんが。水落くんが。水落くんが。  事件が起きてから五年間、彼の噂を聞くたびに父は母に嬉しそうに報告していた。  自らが死ぬ前まで。
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