王様の子

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「先月ここ来てましたよね？　あれって特捜がうちにネタ譲ってくれたって事実ですか？」
「事実だ。その件は法務省の官僚が携わっていたから特捜に圧力がかかりかねなかった。下手に捜査に踏み切ったら自分たちの首を絞める。だから警察に譲ってくれたらしい」
「えー！　そこで捜査やめたらよくないですか？　わざわざライバルのうちの検挙数アップを手伝ってくれなくても」
「通常はそうだろう。捜査をやめて終わり。でもきっとあのエースは正義感が強いんだろうな。自分たちが捜査から手を引くことで制裁を逃れられる悪人を許せなかった。で、毛嫌いしているはずの警察にくれてやったわけだ」
「それがよくわかんないんですけどね…。俺なら毛嫌いしてる組織に譲りたくないですけど」
「それはそうだ。だがあの水落ってやつはどうも変わったやつらしいからな」
　水落は先日、三田議員贈収賄疑惑、つまり大きなネタを掴んだものの、捜査せずに警察に譲ってきた。
　それを警察側は感謝しなければならないはずだが、今までの彼の掻っ攫いなどを知っているので、そこまでの高評価を得られていないのが実態だ。
　むしろ『何か裏があるんじゃないか』『恩を売られた後でとんでもない要求でもされるんじゃないか』と皆肝を冷やしている。