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 水落の評判はここでもたびたび耳にするが、大概いいものではない。  いいとするなら、有能であるとか、特捜部での実績がトップであるとか、そういう能力面に関してのみであり、彼自身や仕事への姿勢についてはこき下ろされることが多い。  おそらくは、水落にクリーンなイメージがあるなら評価は180度異なっただろう。  特捜部のヒーローのような称賛だったかもしれない。  そして、父から五歳まで話を聞かされ続けていたせいか、どれだけ評価が悪くても、彼に対していいイメージを抱いてしまう人間がここにいる。  当然、それを誰にも言えない。  水落がいいと思うなら、彼に憧れでもあるなら、特捜部に行け。そう言われるのはわかりきっているから。  別に憧れなんかない。そもそも話したことさえない。先月ここを訪れたと聞いているが、その時七海はまだ配属されていなかったので見ていない。  だが、実は以前、見かけたことがある。  地域課にいた時、警ら中に応援要請を受けて夜の繁華街に向かった折だ。  ホステス風の美女とともに歩いていた。顔を知らなかったので最初は水落だと気づかなくて、当時居合わせた先輩警官が停車中のパトカーの中から教えてくれた。『あれは特捜部のエースの水落っていう男だ』、と。
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