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 その時の驚きは、形容しがたい。  やっとあの水落に出会えた、と思った。  だから彼の顔をしげしげと眺めた。特捜部のエリート検事というからもっと堅い印象の男かと思いきや、スーツを着崩していて真面目とは言い難い見た目だった。想像していたイメージとはかなり違っていたが、容姿は随分恰好いい人だと思って、今度は別の意味で見入ってしまった。  パトカーを見つけたせいか、水落は中にいる七海らと視線が合うと、余裕の笑みを返して通り過ぎていった。  その時に先輩は『あの人は人の顔を一回見たら憶えていて、オフの時でも街で会えば制服を着てなくても声をかけてくるんだ。「君警察官だよね」って話しかけられてぎょっとしたことがある』などと言っていた。  でもそれ以降彼に会うことはなく、街中で話しかけられることもなかった。  別にそれを待っているわけではない。  待ってどうするというのだ。  一方的にこちらが水落を知っているだけで、彼はこちらを知る由もない。  警視総監の息子には会いにきたとしても。
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