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父が早くに亡くなったので、母は苦労を強いられた。
七海には弟もいて、二人の子供を養うために専業主婦だった母は損害保険会社の営業職に就き、毎日遅くまで働いていた。
だから七海も母を手伝おうと家事を頑張ったし、料理もこなした。三歳下の弟の世話もした。高校生からバイトを掛け持ちし、塾や予備校も行かず学費の安い国立大に入った。
その後バイトや家事をこなしながらも念願の父と同じ警視庁に入ることができた。
しかし母親は長年の無理がたたったのか、肝臓とすい臓を悪くしていて、最近は入退院を繰り返している。現在も入院中だ。
そのため七海は現在大学生の弟と二人で暮らしている。
「あら、奎太。来てくれたのね。仕事が忙しいのに気を遣わなくていいのよ」
入院中の母のもとへ彼女の好きな和菓子を差し入れとして持っていくと、恐縮されてしまう。
母は七海が警察官になりたいと言い出した時には反対した。父親のように早逝してほしくなかったのだろう。でも反対されたからといって七海は志を変えることをしなかった。
それを心苦しく感じている。
折角女手ひとつで育ててもらって感謝しかない母に対し、これは恩を仇で返すような行為ではないか、と。
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