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「…おまえを引き取った時から、いつかこんな日が来るんじゃないかと思っていた。私に背いて、反旗を翻す時が」 「それくらい手に負えない悪ガキだったからね」 「それでもおまえの才能を買っていた。実の息子をおまえに重ねたのは事実かもしれない。だが三年しか見ていない子供よりも既におまえとの付き合いのほうが長い。とっくにおまえへの情が勝っている」 「そんなお涙頂戴話は聞きたくない。うざいよ。気持ち悪い」 「敬二郎がおまえを手に余している姿を見るたび、私なら立派な人間に育てられるのに、と常々思っていた。おまえを欲しいと切望していたことは間違いない。だから敬二郎が亡くなった時、おまえの母親に詰め寄った。養育費もなく子供一人育てていくのは難しいだろうし、東大に入れるほどの頭脳を持ちながら中卒や低学歴のチンピラにしてもいいのか、もったいない、と力説した」 「ねえ、あのさ、東大入るってそんなに偉いの? 官僚になったら人生バラ色なの? 世の中学歴や職業が大事だっていう考えもわかるよ。でもそれ以上に大事なことってあるよね? 子供に必要なのって教育より愛情じゃないの?」 「だから愛情をかけておまえを育てたつもりだ」 「俺がもらったのは躾と作法と教育と頭でっかちの権力至上主義思想だけだ!」
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