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「良かったね、多月くん。念願が果たされて満足? でもね、哀しいお知らせだ」
そこで水落がいつもの調子でおちゃらけた。通常ならイライラするのに、今はそんな気力が湧かない。
「この案件は特捜部として立件できない。わかるよね? 今回提起された事案はすべて起訴条件を欠くとされるからだ。二十年前の事件は既に公訴時効を迎えている。そして最近の収賄容疑については、今ここで仮に自白を引き出せたとしても、それは違法捜査になる」
「違法収集証拠排除法則?」
「流石によくおわかりだ。拳銃で自白を強要しちゃ駄目でしょ。供述証拠に関しては強制等による自白の証拠能力を否定する規定がある。刑訴法319条1項だ」
「しかしこれが仮に違法だったとして。違法収集された非供述証拠の証拠能力に関する明文規定はないよ。排除法則は過去の判例によって採用されたものを基準としているだけだ」
「緊急性を要するから拳銃使ったっていう言い訳通すつもり? 苦しくない? 相手は無抵抗なのに。警察はそれでいけるんだ? 特捜部ならアウトだね」
君ならそれくらい隠蔽工作して立件できるくせに。今さら何を言ってるの?
合法と銘打った違法が得意なくせに。
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