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「あのさ、もうよくない? 警視総監を辞職するって自ら言ってんだよ? それだけでも明日のトップニュースを賑わすくらいの大ごとだ。それが君のゴールでいい。復讐は果たされた。逮捕する必要がない」
「何故僕のゴールを君が決める?」
「もう何だっていいじゃん。君は勝った。だから終わり。拳銃仕舞ってよ。まじで怖いからさ」
「終わっていない」
終わっていない。
だってそうだろう?
何も満足していない。
辞職すると言った。警視総監の座から引きずり下ろすことができた。
失脚させてやった。
じゃあ満足するはずじゃないのか?
逮捕されて起訴されて有罪になるまで満足できないのか?
いや。
いや、違うだろう?
目的がずれている。辞職とか逮捕とか起訴とか、そんなものはおまけだったじゃないか。
自由になりたかっただけだろう?
こんな家を出て、好きな仕事に就いて、好きなところに住んで、好きなことをして。
自分で選んだ道を、自分の好きな人と。
好きな人と?
「…遅せえよ。まさか電車乗ってきたの? タクシーで来なよ」
そこで水落が声をかけた方を向くと、息堰切って呼吸の整っていない仕事帰りの部下がいた。
泣いた後のように目が赤く腫れている。
こんな俺に、最期に会いにきてくれたの?
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