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 タクシーで来た。それでも渋滞していてなかなか辿り着けなかった。  こんな時この広い屋敷が改めて恨めしい。門扉から更に玄関までの道のりが長い。何故か玄関のドアは鍵がかかっていなかったため、そのまま奥に進んだ。長い廊下を抜けて大広間で話し声がしたので、そっと観音開きのドアを開けると、そこには想像もしていなかった光景があった。  中には恭一郎と水落、そして多月がいた。だが、ただおとなしく席に座って歓談しているわけではなかった。  多月は父親である恭一郎に拳銃を突きつけていたのだ。  まさか。  まさか撃とうとしている?  長いテーブルの上には書類が散乱している。おそらくは恭一郎の不正を暴くための資料。  証拠を突きつけても自白しなかったのか? だから拳銃を持ち出した?  撃つ気はないはずだ。脅しのためだろう。それは当然してはいけないことだとわかっているけれど、拳銃に慣れているせいか一般人よりも動揺が少なく済んでいる。  それでもなお、足が震えそうになる。  宮沢が言っていたように、日本で銃撃戦なんてない。一課や機動隊でもそうそうない。  だから警察官といえど、こうして訓練でもなく拳銃を人に向けている場に出くわしたことがない 。
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