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「課長、警視総監に向けた銃を下ろしてください」 「君に僕が撃てる? ねえ撃ってよ。君に撃たれるなら本望だ」  それは決して煽っているだけではなく、本気で言っているように見えた。  撃てるわけがないだろう。  馬鹿か。  目を醒ませ。  そう言いたいのに、涙しか出てこない。 「撃ってくれないなら僕が撃とうか?」  そしてこちらに銃口が向けられた。  互いに撃ち合う姿勢となり、これ以上なく張り詰めた空気に満たされる。  一瞬でも乱れたらすべてを失う。  睨み合ったまま微動だにできずにいると、今度はまた多月の銃口が標的を変えた。  多月は、自らの頭にそれを向けた。  頭に銃を宛がった。  死ぬ気だ。  それを視認した瞬間、目が眩んだ。  ぐらぐらとぶれるように感じられるのは、自分の脳か視界かわからなかった。  本気だ。  本気で死ぬんだ。  死ぬ。  どうして。  どうして。  どうして?  やめて。  お願いだから。  俺を撃ってもいいから。  もう自分も、他人も、誰も傷つけないで。  それ以上何も望まないから。
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