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「義務化しないでよ。仕事じゃないんだから」
苦笑しても空気は和らぐことなく、七海は受け流そうとしなかった。
「だって…不安で…。また死のうとされたら…」
声を震わせる。普段強気の彼がこれほどまでに怯えているということは、余程の恐怖を与えてしまったのだろう。
それを取り除くような思いで抱きしめると、七海は背中に手を回してくる。深く安堵するような吐息が肩口に感じられた。そんな些細な仕草がせつなくなって、愛しくて、抱きしめる力を強めた。
「もう死なないよ」
「本当ですか?」
「信じられないの?」
「信じられるわけがない」
あんな場面を見せられて。そう言わなくても伝わってきた。だからまだ指先がわずかに震えているんだね。その手を握って、自分の温度を彼にあげる。彼の温度を今度はもらう。
「じゃあずっと見張ってて。得意でしょ」
「そういう仕事ですから」
「僕の傍でずっと見張ってて。義務化するならそれにして」
「課長命令ですか」
「もう名前で呼んでよ。昔そうしていたみたいに」
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