王様の子

１１

　男の自分を求めてくれる。きっと女を抱いたほうがいいに決まっている。でも過去出会ってきた数々の女性たちではなく自分がいいと言ってくれる。七海だけを欲しいと言ってくれる。
　それがたまらなく嬉しくて、もう離したくない。
　一生傍にいてほしいと言われた。そうしたい。自分も同じ気持ちだと言いたかった。
　だけど即答できなかった。好きだよと言ってくれる。それにも同じ気持ちなのに好きですと返せない。
　恥ずかしさとかそんなものじゃなく、そんなレベルの話じゃなく、説明がつかないけど、言っていいかどうかわからなかった。
　自分が多月とまだ対等になれていないような、そこまでの人間に達していないのに言えない、というわけのわからない蟠りがあった。
　それはおそらく卓実にも言われたとおり、対等になろうとしている変なプライドが奥底にあって、素直になる気持ちを邪魔しているように思えた。
「好きって言ってよ。ねえ、駄目なの？」
　揺らされると、奥が。中が振動で。振動で擦れるから。駄目。やめて。
　言えば楽になれる。きっとそうだ。
「…好き…」
　一度解き放ってしまうと、信じられないくらい楽になった。
　ずっと胸につかえていたものが砕け散って、あとはガラス片のようなそれが空気中に霧のように細かくなって消えて、跡形もなくなった。