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うつらうつらした意識のまま、目を醒ましたら夜中だった。
人間は都合のいいことを忘れる生き物だ。
だから、先刻までの寿命が縮まりそうな出来事とか、その後の甘い行為とか、そういうことを睡眠中はすっかり脳が消し去っているようだ。
代わりに、覚醒して現実を目の当たりにする羽目になった時の衝撃は計り知れない。
裸の多月の腕に抱き寄せられたまま、ベッドの上にいた。
それだけで仰天した。
でも徐々に徐々に記憶が過去を遡り、ここまでに至った経緯を把握して、混乱は安堵に変わった。
そうか。俺は課長を止められたんだ。
課長は俺と生きることを選んでくれたんだ。
それを実感して、再び感慨深く大きな息をついた。
「まだ寝ていていいんだよ」
同じように寝ていると思った多月は起きていたようで、七海の髪を緩く梳くようにして撫でてくる。
これは、恋人同士の情事の後のまどろみというやつか。
そうなのか。そうなのだろうけど、でも待ってほしい。
置かれた状況は理解したけど、まだ完全にその『恋人同士』というカテゴリーにいる自分に戸惑いがあるから。
「…あの」
「何?」
「…何でもないです…」
色々質問したいことがあったが、まだ混乱していて考えがまとまらない。だから取り下げてしまう。
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