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「どうしたの、しおらしくて怖いよ。寝顔もおとなしいから心配した」 「寝顔は誰でもおとなしいです」  寝ながら暴れたり叫んだりする人間はいないだろう。睨むと、はは、と多月は笑った。  良かった。この騒動が起きる前の、いつもの多月だ。  とんでもない状況、窮地に追い込まれたけれど、変わっていないものがある。  その日常の穏やかな空気が懐かしくさえ思えて、ほっとした。 「課長はずっと起きてたんですか?」 「うん。君のことを見てた」 「おとなしいから心配して?」 「愛しくてたまらなくて」  そう言って、額にキスされた。  ちょっと。  いきなりそういう甘い空気に持っていかれても、こっちはまだ寝起きで朦朧としていて、一緒になって幸せ気分にひたるとか、そこまでの段階に至るのは無理なんですけど。 「あの課長…、って、え…!?」  じゃれ合いのようなスキンシップで終わるかと思いきや、そのまま多月の手が裸の七海の肌の上を這うのでびくりと反応してしまう。  その動きは終わったはずの性行為を彷彿とするもので、つまりまたその行為に至る前段階のように思えた。  いやまさか。いくら何でももうしない、よな?  そう思っていると、やはりキスが深みを増してきて、濡れた唾液の音が室内に反響した。
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