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 翌朝、警視総監の突然の辞任が発表された。  テレビはニュース速報が出た。当然、警視庁も朝から動揺が走っていた。一部の部署は慌ただしく対応に追われているようだった。  理由は一身上の都合としていたが、あまりに突然なのでマスコミでは重病説が有力視されていた。  逮捕ではないので不祥事による退職にはならず、そうすることで多月へ悪影響が及ばず済んだ。  水落は起訴できないからとこの件を特捜部で捜査しようとさえしなかった。だからこそ現職警察トップの汚職による逮捕、辞任という最悪の事態を避けられたわけだが、本当に起訴に至らない事案だったのだろうか。過去の事件はともかく、最近の汚職は部下か誰かが起こしたものなら捜査してもいいはずだが。それとも少額だから特捜部の捜査要件を満たさないとしたのだろうか。  いや、そこにはおそらく彼なりの配慮がある。恭一郎が辞職した。それですべて責任を果たしたとしてくれたのだろう。彼が好んで隠蔽しようとしたのではない。水落はそんなことをしても何の得もない。  多月は欠勤したわけではないが、各方面から問い合わせがくるのが面倒だったのか、一日警視庁には姿を見せなかった。  七海はその辞任の件はほとんど関係がなく、通常の仕事をこなしていた。
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