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「いやーしかしびっくりしたな。警視総監が電撃辞任だなんて。課長は知ってたのかな?」  朝から二課でもその話題で持ちきりで、夕方になって仕事が一段落した時に宮沢が再度その話題をふってきた。当然最初の一報時にその話をしたが、余程衝撃だったのか同じ話題をまた話したいらしい。 「知っていたでしょうね。家族ですから」  当たり前の会話なのに、家族というワードを口にしつつ罪悪感が生まれた。 「じゃあやっぱり病気かな。でも普通三月の年度末で辞めるんじゃねえの? 五月の今の時期になって急にっていうのが気になる」 「病気が発覚したのが最近、とかそんなんじゃないですか」 「まあ普通に考えてそうだろうけど。課長は警視総監の後ろ盾がなくなって不安だろうな」 「元々そういうものを頼って生きてきた人ではないです」 「あ、考えてみたらそうだよな。父親自慢とかそんなこと一度もしてなかったし」  仕事以外の多月のことをよく知らないとこういう感想になるのだろう。そういえば父親の話なんてしなかったな、普通自慢するのに、と。関心がなければそんなものだ。 「で、おまえは意外だね。やけに課長に肩入れしてんじゃん?」  しまった。この件で彼が悪く言われないようにと案じていたせいか、確かに七海らしくない発言をしてしまった。いつもなら『まあ何とかやるんじゃないですか。あの人なら』というように適当に流しただろう。
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