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 課長はいつ帰ってくるのかな、という声が仕事をしながら聞こえてきて、顔を上げる。  そういえばまだ帰ってきていない。夕方には帰るとのことだったのに。  ただでさえ辞職に関しての問い合わせが多い中、それ以外にも課の他の人間も決済やら稟議書やら彼のチェックや押印を待っている。どこにいるのだろうか。  まさか、今日になってやっぱり死のうと思い立ってはいないだろうな?  急に不安になってきて、『今どこにいるんですか?』と多月の携帯にメールした。すると間もなく返信が届いたのでほっとする。しかし『君のお母さんの病院』とあって、不審がる。  『見舞いですか?』と返すと、『改めて謝りたかった。でも寝ていたから病室を出て屋上にいる』ときた。  屋上? 一人で? 怖い。やめてくれ。高層ビルとまではいかないが大きな病院だから相当の高さはある。急に魔がさして飛び降りるなんてこともありえないわけではない。  このまま多月が帰ってくるのを待っていればいいものを、不安が消せないまま『今からそっちに行きます』と送ってしまった。返事が着く前に仕事と称して宮沢に適当に理由を告げ、ボードに外出を書き込み、慌ただしく二課を出た。
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