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 母の病院はここからそう遠くない。電車で三駅ほどだ。そう思って桜田門駅から電車に乗ったところで多月からメールが来た。『大丈夫だよ。死なないから』とあった。それによって安心したけれど、既に電車に乗ってしまった。もういい。サボっているにしても多月を連れ帰ればいい。そう思って引き返すのはやめた。  駅から病院までは十分以上歩く。それでも通い慣れた道だからあっさり着いて、病院に入るとエレベーターを目指して乗った。屋上に出られることさえ知らなかった。ドクターヘリでも発着するのだろうか。そう思っていると瞬く間に屋上に到着した。  ドアを開くと、目が開けていられないほど眩しい西日が差してきた。  風も強い。屋上だから当たり前か。そう思いながら進んでいくと、欄干に凭れて下界を見下ろす多月の姿を見つけた。ほっと安堵の息をついたものの、落ちないのだろうかと冷や冷やする。柵を昇るでもしない限りそんなことはないのだとわかっていたけど、それでも怖くなる。 「…課長!」  後方から声をかけると彼はふり返った。夕陽を浴びて全身黄金色に染まり、風に髪を揺らしている。  こうして見ると多月はやはり美男で、通りすがりの人間からため息が漏れるのも当然と思えた。  まだ羨ましい気持ちがある。悔しい気持ちがある。それでもいいだろうか。そんな卑屈な自分のままで。
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