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「死なないって言ったのに。信用ないんだな僕は」
苦笑を返される。
「あるわけないじゃないですか」
「はは。それもそうか。あっちはまだ騒がしいのかな?」
警視庁での警視総監辞職騒動のことを訊いているのだろう。七海はうなずいた。
「息子である課長のコメントが聴きたいとか、辞任の理由について何か知っているかとか、各方面から問い合わせが来ています」
「そうだろうね。お疲れさま」
まるで他人事だ。息子のくせに。そして辞職に追い込んだ張本人のくせに。
「満足しましたか?」
「辞職させたこと? そうだね、大満足だ。…と言いたいところだけどそうじゃない」
そう答えるだろうと思った。眺望を見下ろす背中はとても喝采を上げたいほど喜びに満たされているようには見えなかった。言い知れぬ虚無感を滲ませていた。
「こんなものか、と思った。なんだ、この程度のことだったのか、って」
「とてもこの程度の問題じゃありません。日本中にニュースとなって駆け巡っています」
「でも明日になれば収まる。世間は日々多くのニュースで溢れているから」
「そうかもしれませんが、課長のしたことは決して小さくありません」
「それなのに満足しなかった。きっと父が死んだとしても満足はしないんだろうね」
「復讐はそういうものだと思います。でも」
そこで止めると気になったのかこちらを見つめてきた。
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